昨日07/30付けの新聞に、マイケル・ジャクソンの死因について、麻酔薬+麻薬の投薬中の事故ではないか?という話が出てました。
もともと強い疼痛があるので麻薬を使っていた(どんな疼痛に対して何の麻薬かは分かりませんが)とのことですが、欧米では、外来での疼痛管理に麻薬を使うのは、ごく一般的なことみたいです。というより、この点では日本がかなり遅れているだけですけどね。でも麻薬は麻薬でして、使い方を誤ると怖い薬品であることは確かです。
麻薬に関してははっきりと商品名もしくは成分名が書かれていませんでしたが、一般的に麻薬だけでも十分に呼吸抑制作用があります。が、それに加えてマイコーは、普段からひどい不眠症のために、
注射で睡眠剤の投与を受けていたとのことです。
...ちょっと待て、"注射"で(;゚д゚)...?良く記事を読むと、
プロポフォール(商品名:ディプリバン)を使っていたとのことですが...これって...
全身麻酔の時に、主に使われる薬ですよ!こんなモノを使ってたのか...そら呼吸停止もするわな...。かなり呆れながら、いろんな記事を読みました。これが本当なら、かなり恐ろしいことをしてたんだなぁと思いますね。
基本的には、プロポフォールは手術室、ICU(集中治療室)、もしくは救急外来でしか、見ることは出来ません。というのも、「短時間に鎮静が得られ、しかも覚醒が早い」という特性を持つため、例えば救急外来で脱臼の整復をするときには、ショット(少量を静脈内投与すること。和製英語。本来の英語では
bolus投与)で使います。また、持続的に少量ずつ静脈内投与をすることで安定した鎮静が得られるため、全身麻酔の時に使われることも一般的な用法の一つです。ワタクシも全身麻酔ではよく使っています。非常に使いやすい薬で、覚醒が早いため、麻酔の管理がしやすいのです。

プロポフォールは、「あまり長時間ではない」鎮静を得る時に使われます。手術時に使うといっても、数時間~精々12時間程度でしょうか。それ以上になると、プロポフォールのシリンジ内に入っている乳化剤が、脂肪分として体内に多く入ってしまうことになるので、あまり長い時間の鎮静維持には使わない傾向にあります。(ワタクシなら、手術で6時間以上の長時間の鎮静が必要であればセボフルラン等の
吸入麻酔薬を使いますし、ICUでの鎮静下での管理が必要なら、ミダゾラム等の水溶性
全身麻酔薬を使います。)
マイコーのように、単に(不眠症の方には失礼な表現ですが)眠れない、というだけでは、普通はプロポフォールは使いません。というか、絶対使ってはいけません。まぁ日本では絶対に外来患者さんに対して処方されることのない薬ですが、さすが米国、自由診療マンセーですな。
なぜ外来で処方しないかというと、一つは単に静脈内投与しかできない薬だからという理由です。使うたびに静脈ルートを確保せねばなりません。平たく言うと、一々点滴せねばならないのです。
あとは、薬の作用の問題です。これらの薬はあくまで「全身麻酔薬」であり、全身麻酔を行うかそれに準ずる鎮静を得るときに使うものであり、その鎮静作用は非常に強力で、循環や呼吸に対する抑制作用がかなり強いのです。簡単に言うと、少し多い目の量を投与すると、あっさり呼吸が止まり、心拍が減ります。なので、モニタリング(心電図や末梢飽和酸素濃度などのリアルタイム測定)をしていないときにこの手の薬剤を投与することは、死亡事故を起こすこととほぼ同義と言っても間違いないくらいなのです。正確ではないかもしれませんが、高度計や速度計、燃料計の無い飛行機で、管制官が全然イケてない(笑)、非常に混雑している空港に着陸することと同じくらい難しいと思います。
それに加え、マイコーは普段から、全身の痛みに対して医療用の麻薬を使っていたというじゃありませんか。医療用とはいえ、麻薬もかなり強い呼吸・循環抑制作用を持ちますので、これらの薬の相乗作用で今回の騒ぎが生じた、ということは想像に難くありません。
勿論そうだという証拠は無いですが、今回の事件は、薬の過量投与+うっかり目を離した隙に息が止まっちゃってた、というのが原因じゃないでしょうかね。いずれにしても恐ろしい話です。
要は、薬を使うときは、例え市販のモノであっても、「薬と毒は紙一重」、「用量用法を守って」、病院で出されたものならば、「医者の指示に従う」というのが基本です。ちゃんと内服してても副作用が出ることもあるのに、適当な使い方をしていると冗談じゃなく、命に関わります。
その辺に売っている「市販の風邪薬」でも、使い方によっては肝壊死を起こすことがありますし、こうなるとその辺の眠剤を一気に飲むよりも致死率は高くなります。ぶっちゃけ、眠剤を飲んで自殺を図る人がいますが、んなモンを1000錠ほど飲むよりも、xxxxxxxxx(検閲削除)を一瓶(200錠くらい)飲んだ方が、より確実に死ねます。ただし、死ぬまで時間がかかり、うっかり救命センターに搬送されようものなら物凄い集中治療を受けることになりますので、遺族は莫大な請求金額に頭を悩ませることになるでしょうね。その辺は一考の余地有りですが。
とにもかくにも、『
どんなものでも、人間に関わる物質は、薬にも毒になりうる』『
薬を飲むことと毒を飲むことには、ほとんど差は無い』というのは、必ず憶えておいて下さいね。
健康を維持するためのお薬が、うっかり使い方を間違えたために毒として作用してしまうことを、まず自分から予防しましょう!